パラグライダーは短い練習期間と安い費用で空を飛ぶことができるスポーツです。しかし、空を飛ぶ以上、墜落事故の危険が常にあります。パイロットがケガしたときは自分のケガは自分持ちでいいのですが,事故で他人に損害を与えてしまった場合はどのような法的責任が生じるのでしょうか。 この問題はどういう事故かによって異なってきます。そこで、ケースを分けて考えてみます。
過失でパラグライダーの事故を起こし,それによって第三者の身体に死傷などの結果を生じさせた場合は:刑事的には(重)過失致死傷罪や業務上過失致死傷剤等の犯罪になることがありえます。自分がケガしただけなら事故とケガは自分持ちの世界ですから問題ないのですが。
しかし、ここでは民事責任についてのみ説明しています。スカイスポーツの事故に関して判断された裁判例はとても少ないし裁判官の理解も乏しいので、その他の危険を伴うスポーツにおける事故の裁判例なども参考にしています。
ここでは、いくつかの例をあげて説明しますが、実際の事故では、具体的事情により法律的な責任が大きく異なってきます。ここでの説明が他の事故に通用するものではありません。一般的には、過失があるか?どんな損害があるか?で決まります。
このページは随時改訂しています。パラグライダーの方が愛好家が多いので、「パラグライダー事故の法的責任」としましたが、ハンググライダーの場合もほぼ同じ様なことになるでしょう。
パイロットが他人に与えた損害を賠償する法的な責任(民事責任)を負うかどうかは、その損害を与えたことについて故意または過失があるかどうかによって決まります(不法行為責任)。この事故はランディング直前の風(気象)によって発生したものですが不可抗力ではなく、そのパイロットのエラーによる場合は責任を負うことになります(どんなパイロットでも的確な対応が出来ないような危険な風であった場合は、そもそも、そういう状況でテイクオフしたこと自体が過失であった可能性もあります)。
そうすると、事故によるパイロット自身の骨折はそのパイロットのエラーのみが原因ですからその責任は骨折したパイロット自身が負担することになります。スポーツをする者の自己責任です。自ら傷害保険などで防衛するしかありません。
地上にいる人が負傷した原因はパイロットの過失にありますから、その負傷に対する責任はパイロットが負います。具体的には、治療費、治療のための交通費、負傷に対する慰謝料、負傷によって稼働できなかった期間に対する休業補償、後遺症が残った場合は後遺症慰謝料と将来の逸失利益などが考えられます。きちんとJHFに登録し、さらに総合保険にも入っておくべきです。
パラグライダーの飛行には、あまり厳格ではありませんが、空中接触を避けるためのフライトルール(トラフィックルール、交通規則)があります。また、エリアによっても安全のための独自のルールがあります。これらは、道路交通法のような法律ではありませんが、やはり安全のためのルールとして一定の範囲で規範性が認められると考えられます。そこで、事故原因を調査して、どちらのパラグライダーパイロットのフライトルール違反(過失行為)が事故の原因となったかという点が法的責任の帰属を決める大きな要素となります。飛行機や船の世界のトラフィックルールは一定の目的地に向かって進行するものどうしのルールですが、パラグライダーやハンググライダーの場合は一定の目的地に行くための交通機関ではなくフライトそのものを楽しむ要素が強く、しかも狭い空域に多数のグライダーが直進したり旋回して飛んでいるという実情があるので、トラフィックルールだけで考えても解決できない場合が多いのです。
その場合、一方のパイロットにのみ過失が認められた場合には、そのパイロットがその事故によって発生した損害について全ての責任を負担することになりますし、双方のパイロットに過失が認められた場合には、その過失割合に応じて(例えば40%対60%)責任を負担することになります。
ただし、そもそもフライトルール自体が非常に簡単なものしかありませんし、それが全てのパイロットにどれだけ理解され共通ルールとして徹底されているか疑問無きとしません。また、複数のフライトルール(トラフィックルール、交通規則)が相互に抵触する場合も考えられ、その場合の優先関係の判断は非常に難しいものになります。空中衝突事故を一定のパターン化して過失関係を説明できないか研究しているところです。
事故の原因はヘルメットを被っていなかったこと、強風下で立ち上げ練習をしたこと、そして講習生の技術の未熟が考えられます。しかし、そもそも講習生は技術が未熟なものですから、たとえ講習生自身の過失が事故の一因であるとしても、技術未熟な講習生を危険にさらすことなく安全に講習を行うことはスクールの義務であると言えます。スクールと講習生は、パラグライダーの講習契約(スクールは生徒に対してパラグライダー飛行技術を教える、生徒はそれに対して講習費用を支払うという内容の契約)を締結しており、その契約に付随する義務の一つとしてスクール側には講習生の安全に配慮すべき義務があります。ヘルメットを被るように指導しなかったこと、立ち上げ練習に適さない強風下で講習を行ったことは、その安全配慮義務違反となる可能性があります。
したがって、講習生の負傷についてスクールが法的な責任を負担する可能性があります。ただし、抽象的な安全配慮義務の存在は否定することができませんが、具体的にどのような場合に安全配慮義務違反になるかという問題は、ケース バイ ケースであって、一般的に言うことは困難です。「講習中の事故=スクールの責任発生」ということではありません。スクールに安全配慮義務違反が認められない場合もあるでしょう。
ベテランパイロットにとっては楽しいサーマルコンディションであっても、経験の乏しい講習生にとっては危険な場合があります。しかし、講習生は経験不足のために、フライトしたら危険名コンディションなのかどうか判断することができません。そこで、スクールが、当該講習生の技術、当日の体調、精神的な安定性などを考慮したうえで、当日の気象条件等がその講習生の飛行にとって充分な安全性を備えているかどうか判断することが必要です。
本件の場合、墜落の原因は、指導員の指示に反して風の荒れた空域に入ったこと、翼端の回復措置が不適切であったことなどが考えられます。それはどちらも本質的に講習生の過失ですから、原則としてスクールの責任を認めにくいケースのようです。
しかし、もともとB級講習生は一人前のパイロットではありませんから、常に的確な操作を期待することはできません。この場合もスクールの安全配慮義務違反の問題が発生する可能性があります。現場の地形(地形的危険性)、気象、当該講習生の技術水準・体調・性格、インストラクターの指導内容などの具体的事情によってはスクールに過失が認められ法的責任が発生する可能性があります。
ただし、もともとパラグライダーは空中を飛行するスポーツですから、常に墜落という危険を内包しています。講習生といえどもその危険に接近することを承知のうえで受講しています。そして、飛行技術を習得するためには高高度飛行の訓練が不可欠ですし、技術の向上に応じて、ある程度強い風やサーマルコンディションを経験することも必要です。また、一旦空中に出てしまうと、講習生自身がパラグライダーの操作を行い自ら危険を回避しなければなりません。パラグライダー講習の持つこのような特徴は、事故が発生した場合に、生徒の責任か、それともスクールの責任かという問題を判断するうえでも大きな比重を持つことになります。こういう性質を考慮したうえでケースバイケースで過失の有無が判断されることになるでしょう。
また、スクールに過失が認められる場合であっても、講習生自身の過失は過失相殺の対象になりうると考えられます。A級、B級、NP級と講習が進んでいくにつれ、講習生の技術は向上し、同時に講習生には的確な操作が要求されるようになります。講習中の事故においてスクールの責任が認められた場合も、講習生の講習レベルや事故原因など具体的事情により講習生自身の過失を考慮することが損害の公平な分担の見地から要求されます。
超軽量動力機(ウルトラライトプレーン)のフライングクラブにおいて、初心者がジャンプ飛行訓練中、操作を誤り5メートル前後の高さから墜落負傷した事故について、裁判所は、クラブ主催者の安全配慮義務違反を認めると同時に、事故原因の相当部分は操縦未熟にあるとして、負傷した操縦者にも7割の過失があると認定しました。パラグライダーの講習中の事故においてもこの判決は参考になるでしょう。
機体に欠陥、即ち「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」がある場合には、機体の製造業者、輸入業者等は、それによって発生した損害を賠償する責任を負う(製造物責任法)。日本では外国メーカー製の機体が多いので輸入者が責任を追求する場合が多いでしょう。ただし、「パラグライダーが通常有すべき安全性」とは何か、問題です。製造物責任法が適用される場合、被害者は製造者・輸入者の過失を立証しなくても機体の欠陥だけを立証すれば良いとされる点で被害者に有利となります。
競技会の場合、主催者と参加選手との間には、主催者は競技会を開催する義務を負い、参加選手は参加料を払う義務を負う(有料の場合)という契約が締結されます。その契約に付随する義務の一つとして、主催者は参加選手に対し、参加選手が安全に競技できるように配慮し、万一事故が起きた場合には直ちに救助する義務を負うなどの安全配慮義務を負担すると考えられます。
パラグライダーの飛行においては、一定の面積があり障害物などの危険性の低いランディング場の準備が不可欠です。そして、もしランディング場に人を発見したときは、ランディングしようとしたパイロットとしては人との接触を避けることを最優先して飛行せざるを得ないことが多いと思われます。
したがって、参加選手が飛行中にランディング場に無関係の第三者が入り込まないよう管理することは主催者の安全配慮義務に含まれると考えられます。 p>
本件の場合、ランディング場に子供が入り込んだことに主催者の過失があり、子供たちが入り込んだ事と当該事故(負傷)との間の因果関係が肯定される場合には、選手が被った損害に対して主催者に法的責任が発生するでしょう。ただし、事故(負傷)について選手にも過失が認められる場合には損害の公平な分担という観点から過失相殺されることになるでしょう。こういう責任はいずれも具体的なケースによるので、あくまでも責任が発生する可能性を指摘しています。
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弁護士 安田英二郎
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